【コンセプト】 
 むかし、『Dead Poets Society』(邦題「いまを生きる」)という映画がありました。惜しくも数年前に自殺してしまった名優ロビン・ウィリアムズ演じる高校教師と若きイーサン・ホークらが演じる生徒たちとの触れ合いの物語です。権威主義的な教育を課す全寮制高校の方針に反発したその教師と数名の生徒たちが、洞窟に隠れて過去の詩人たちの詩を読む会「Dead Poets Society」を作り、詩に導かれて自分たちのほんとうの姿を見つけていく、という物語です。 

 詩はとても小さな芸術ジャンルですが、この映画のように、小さな洞穴のような場所でこそ、一人ひとりの心の奥深くに染み入り、他では得られない人生の糧を与えてくれます。なぜなら古来、詩人たちは「生と死」という普遍の命題を全身全霊で詩に託してきたからです。

  サムネイル画像の絵は18世紀のイギリスの詩人トーマス・チャタートンの死の姿を、ラファエル前派の画家ヘンリー・ウォリスが描いたものです。チャタートンは17歳で経済的困窮の中で自殺してしまった薄幸の天才詩人ですが、古詩の贋作詩人としても当時異彩を放ち、現在の詩人たちにも影響を与え続けている「Dead Poet」です。20世紀のアメリカの形而上詩人ウォレス・スティーヴンスはこう書いてます。 

I hear the motions of the spirit and the sound 
Of what is secret becomes, for me, a voice 
That is my own voice speaking in my ear. 
It is still worth straining one’s ears to listen to the voice of Chatterton.             

私は魂の振動と音響を聴く
秘匿されたものすべての、私にとっての声を 
それは私の耳にささやく私自身の声。 
チャタートンの声を聴く者の耳にだけ届く声なのだ。                    
(中村剛彦訳) 引用元:Poetry Foundation https://www.poetryfoundation.org/poets/thomas-chatterton 

 スティーブンスが述べるように、自分の内なる声に耳をすますと、それは今はいない遠い過去の詩人の声とつながっていきます。本イベントは、「いまを生きる」詩人、アーティストたちとともに、そのような「声」をもとめる「語り(ナラティヴ)」の場でありたいと思います。

  第1回はテーマを「非存と有存の狭間をさまよう」としました。私たちが生きているということ、存在しているということ、「ある」ということはどういうことなのか、詩の朗読、映像を交えて、語り合います。*末尾にインスパイアを受けた詩「非存」をつけています。

  2022年2月4日(金)20:00start 

<プログラム>
 1st 20:00〜20:40  
・映像「盆にかえらず」(二宮大輔)× 朗読「声」(中村剛彦)  
・朗読 テオフィル・ゴーチエ「火葬と奥都城」、自作詩「眼窩 桃の香り」(八潮れん)  
・映像「another village」(二宮大輔)  
・朗読 夏目漱石「正岡子規」(つむぎ)  
・映像「竹生島」(二宮大輔)× 朗読「半月のうた」(中村剛彦)  
・朗読 シルヴィア・プラス「チューリップ」(中村剛彦)

 2nd 20:45〜21:30  アーティスト・トーク「非存と有存の狭間をさまよう」 

<会費>無料 *会の終了後、よければ投げ銭をお願いします 

<出演者> 
八潮れん(詩人) 詩を書く人。長野県長野市出身。横浜市在住。2011年アンスティテュ・フランセ東京の詩祭における仏詩翻訳コンクールで優秀賞受賞。2016年第4詩集として自作の日仏対訳詩集「Temps-sable/時砂」を仏人との共著で出版。近年日仏で様々なジャンルのアーティストと朗読パフォーマンスを行なっている。2018年朗読CD発表(仏人との共作)。同年仏ブルターニュでの現代詩フェスティヴァルに招待された。
 「ナラティヴ ナラティヴ」連載「欲望は威厳に満ちて」:https://narranarra.com/renyashio-poems6 

つむぎ(作家) 1985年、横浜市内に生まれる。横浜市内でずっと育つ。 今のところ動くつもりはないが、つもりがないだけである。 好きなものはコーヒーとバタートーストとチョコレート、苦手なものはわさび漬け。 AB型。 趣味は社交ダンスとカラオケ、特技はラテアート。 移動手段は主に自転車を使用。
「ナラティヴ ナラティヴ」連載「うつくしい物語」:https://narranarra.com/tsumugi3

 二宮大輔(喫茶店主・映像作家) 1975年、東京生まれ。 
喫茶店「フィシッフ キュッヒェ」:https://www.fischiff.com/kueche/index
「ナラティヴ ナラティヴ」連載「どっちも回ってる」:https://narranarra.com/ninomiya-essay3 

中村剛彦(詩人) 1973年、横浜生まれ。詩人。元ミッドナイト・プレス副編集長。詩集『壜の中の炎』『生の泉』(ともにミッドナイト・プレス)。共著『半島論 文学とアートによる叛乱の地勢学』(響文社)。 個人ブログ:https://takeandbonny.tumblr.com 
「ナラティヴ ナラティヴ」連載「生存と詩と」:https://narranarra.com/living-and-poetry6 「映画にとって詩とは何か ヴィスコンティ論」:https://narranarra.com/takehiko-film-critic-visconti7 

非存   吉田一穂 

〈私〉は自らに見えない暗点である。 
棟に梟が降りて、折り鶴を放つ。 
天河を渡る羽音に三千年の獣たちが吠える。
 齢(よわい)をこめた筥の中なる己れを抱いて龍宮の遠い花火。
 影と語る〈彼〉私は消える。
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