竹内敏喜 『魔のとき』以降 
L・Bに倣って 8 (二〇二〇年六月二九日)

二〇一二年発行の自然科学系の雑誌をめくっていると
特集記事に、話者が一万人未満の少数言語の数は三五二四に上るが
その使用者はあわせても世界人口の〇・一%にすぎない、とあり


現在、およそ七〇〇〇の言語が話されているものの
二週間にひとつのペースで
地球上から言語が消えているとも報告されている


総人口七〇億人の七八%が使用する八五の主要言語に吹きとばされ
この八年に、約二〇八の言語が失われたのだろうか
子々孫々に育まれるはずだった生命への知恵とともに…


土地の本来の所有権を主張し、政府に抗議し続ける者がいる一方
少数民族の若者の多くは英語などの主要言語を学び
差別を受けながらも町での生活に馴染もうとしてきたから


子どもたちも使うが、家庭の外ではめったに使われないそれ
新しい言語に取って代わられ母語ではなくなったそれ
使われてはいるが、話すのは高齢世代に限られてしまったそれ


めったに使われることなく高齢世代しか話せないそれ
もはや話す人がいないそれ、が
完全に消えていく


「言語の国から見たなら、むしろ消滅するのは
その時空ならではの知恵を学べる人間の方だ
画一化された数億人なんて、ひとつの人格にすぎないよ」


そのうえ、同じ人格同士で理解し合えないというのは幼稚で野蛮だ
今日のきみの声はピアノ・ソナタ八番の第二楽章のように胸に沁みる


いつからか、日々の食卓の肉類や野菜へ
心からの感謝を捧げることなく食している人たちと
お酒の席を共にしたいとは思えなくなった


根拠を見定められないまま、自分の詩学を抱えていくしかない
他人がすべて、太陽とともに歩んでいるとしても
竹内敏喜(たけうちとしき)
詩人。1972年京都生まれ。詩集に『翰』(彼方社、1997年)、『風を終える』(同、1999年)、『鏡と舞』(詩学社、2001年)、『燦燦』(水仁舎、2004年)、『十六夜のように』(ミッドナイト・プレス、2005年)、『ジャクリーヌの演奏を聴きながら』(水仁舎、2006年)、『任閑録』(同、2008年)、『SCRIPT』(同、2013年)、『灰の巨神』(同、2014年)​​​​​​​。
 
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