竹内敏喜 『魔のとき』
L・Bに倣って 6 (二〇二〇年六月八日)
この星が誕生したときにも
闇はすでに、その背後にくっついていたのだから
なんらかの仕事を抱えていたのだろうと
冷静に考え直せば
光とは、地球外からやって来るものを意味しているようで
どちらに好意を持つべきか、わからなくなってくる
ぶきみな存在だと思っていた、あの夜行性の
ちまちました生き物たちこそ知っていたのだろう
光の支配下にあるのは、心底おそろしいということを
今では、人類の大半も
生まれてから死を迎えるまでの月日すべてを世にさらし
闇の岸辺を削るみたいに、歩かされている
その光線の輝きは色鉛筆の削りカスのようで
その熱はデジタルな数字の点滅に似ていて
きまぐれに耳を傾けては、線路と車輪のキシリに驚かされるまま
ムラがあるゆえに自然だと認め合い、その抱擁に安心し
利益の何割かの搾取もしかたないとあきらめて
他人が次々に見捨てられても自分は大丈夫だと決めつけている
だが、癒えない喉の渇きを知る者なら
ピアノ協奏曲五番を、カデンツァから飲み干してはいないか
その麦の水にデモーニッシュな泡をあふれさせ…
(もっとも(すぐれた(人々は(苦悩を(通して(歓喜を(かちうる
「言葉は、世界を救ったりしない
人類に救いの手をさしのべられるだけ
闇からエネルギーを得て、小さい炎を灯しているだけ」
この炎こそ、慰めのロウソクだとだれが知ろう
見知らぬため息にすら、消えてしまったり
目を離せば大事な森ひとつくらい、簡単に消滅させるけれど
闇はすでに、その背後にくっついていたのだから
なんらかの仕事を抱えていたのだろうと
冷静に考え直せば
光とは、地球外からやって来るものを意味しているようで
どちらに好意を持つべきか、わからなくなってくる
ぶきみな存在だと思っていた、あの夜行性の
ちまちました生き物たちこそ知っていたのだろう
光の支配下にあるのは、心底おそろしいということを
今では、人類の大半も
生まれてから死を迎えるまでの月日すべてを世にさらし
闇の岸辺を削るみたいに、歩かされている
その光線の輝きは色鉛筆の削りカスのようで
その熱はデジタルな数字の点滅に似ていて
きまぐれに耳を傾けては、線路と車輪のキシリに驚かされるまま
ムラがあるゆえに自然だと認め合い、その抱擁に安心し
利益の何割かの搾取もしかたないとあきらめて
他人が次々に見捨てられても自分は大丈夫だと決めつけている
だが、癒えない喉の渇きを知る者なら
ピアノ協奏曲五番を、カデンツァから飲み干してはいないか
その麦の水にデモーニッシュな泡をあふれさせ…
(もっとも(すぐれた(人々は(苦悩を(通して(歓喜を(かちうる
「言葉は、世界を救ったりしない
人類に救いの手をさしのべられるだけ
闇からエネルギーを得て、小さい炎を灯しているだけ」
この炎こそ、慰めのロウソクだとだれが知ろう
見知らぬため息にすら、消えてしまったり
目を離せば大事な森ひとつくらい、簡単に消滅させるけれど
竹内敏喜(たけうちとしき)
詩人。1972年京都生まれ。詩集に『翰』(彼方社、1997年)、『風を終える』(同、1999年)、『鏡と舞』(詩学社、2001年)、『燦燦』(水仁舎、2004年)、『十六夜のように』(ミッドナイト・プレス、2005年)、『ジャクリーヌの演奏を聴きながら』(水仁舎、2006年)、『任閑録』(同、2008年)、『SCRIPT』(同、2013年)、『灰の巨神』(同、2014年)。