八潮れん 欲望は威厳に満ちて  
⁂ 詩の朗読 または一抹の漏毒


ある情景にて 何者かになろうとする物質を何と呼ぼう
  否定でも肯定でもない不形の 養分 その微動が

    日の目を見て どうやら分裂しながら空間を満たしはじめる
            まわりにある無縁の動行は 完全無欠に生きて消えていく
              伝達しあって 溶けあって 四方八方

わたしがいようがいまいがなに一つ不足していない
そうなのだけれど 滝の流れのようにわたしは
あちこちにいて その狭間からある量感が頭をもたげる
どことなく夢見る支配者然としていて
初源の瞬間を踏み出そうと待ち構える いや躊躇している

            ここにあって休みなく湧くかけらを
          余すところなく響かせよ
        意気地なしと嘆いている時間はないのだ
      誰かが名指した詩という知の話ではない
先祖代々からの妄想や愚行の数々を放てばよい

ただし悪いが決まってわたしはわきにそれていく
  この的外れは生活の修行が足りないせいか
    意味の履き違えは聞くべきを聞かず見るべきを見ずにいるせいか
      もっとも切実に求めているものを散らしてしまう

友の精神のおののきがその不器用を修正する 
小石だらけの河原の匂いがする 
風と砂つぶの舞う海岸の音かもしれない
遠く遠く 別世界で 友は傷を噛む 侵しがたく輝いている

           思考するな 陰にこもった不安の罠に落ちるな
        耳を澄ませるべきは他者の皮膚で震えている時間だ
     どこからでも闇雲にやってくるぞ 胎内で燃える鉱石となり
   黄金色の塵となって 怒涛のように唸る生き物そのものの絶頂を発話せよ

   * 
   *  
   *
                    このように幾重もの解読に上昇する詩篇は 
                しかし不発のまま抑圧され

        いつ果てるともしれない この圧倒的呪縛から逃れ 
法外な妄想を鎮めるために 朗読は続く
  
八潮れん​​​​​​​

詩を書く人。長野県長野市出身。横浜市在住。2011年アンスティテュ・フランセ東京の詩祭における仏詩翻訳コンクールで優秀賞受賞。2016年第4詩集として自作の日仏対訳詩集「Temps-sable/時砂」を仏人との共著で出版。近年日仏で様々なジャンルのアーティストと朗読パフォーマンスを行なっている。2018年朗読CD発表(仏人との共作)。同年仏ブルターニュでの現代詩フェスティヴァルに招待された。

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