螺旋系 小林レント
気層ゆらぐよ。十二月の空は
微粒子のひかりで
幾ばくかの線虫たちを走らせている
このかぼそい灯火のその圏外は
寄（よ）す家（が）がのない、夜だよ
宇宙群のほとんどが、ただ黙している
ときおり異質な土臭いにおい
音や形象たちを投げやるが
なにを示しているのかも
ほんとうのことはわからない
午前二時、布団に呼吸困難で
正体不明の小学生は
ペンライトの色に発光して沈みつつ
背高猫背のおじさんの
ポケットでエアが恐慌してる
あっちに突っぱりもんどり打ってこっちに
腸（はらわた）。しろく、あまにがさ嘔吐して
笹舟は子ども。三十一艘すべてが座礁したり
あっちこっちから漏水して
なぜなのさ、
なぜなのさ、
ぼくがいま覚えていること
ふるえる手首の磔で覚えちゃいないことになり
衰微する。あるいはまた
オレンジ色にちいさく柔んだ
名も知りえぬ遠い惑星の翳りにて
誰かが思いだす
水辺の骸があるとするなら
「ね。きみは……」
死の川で呼びかけをする
対象ははじめからもういなくて
問いと応えの駆け落ちさあ
だらしなく傾斜した廃ビルの草陰から
幾億のハレーになって、くるくると散らばってゆく
非人称の
溢れそうなかげよ
どこまでも貧しいひかりよ
ハゼランがもう散ろうとしている
「今日は寒くて、よいお天気です。ばかみたいだね」
時は果てるのだ、いまも
あなたは最後のひとすじの呼気を漏らそうとしており
わたしの吸気は拙くて
言ノ葉は
届くかどうかさえさだかでない
時はしかして持続する。いつまでか知れない
この日々の螺旋系を
いくたびも、いくたびも繰り返して
小林レント（こばやしれんと）
１９８４年生まれ。