古沢健太郎 音響論
「音と反復2」

 音楽は時間芸術とされているが、実際音楽体験が成立するにあたっては時間の想起および予期が必要となる。記憶と予測と言い換えることができるだろう。例を挙げれば、メロディの聴取は今現在現れている音とそれに先行して現れた音との繋がりを関係付けながら行われる。またいわゆるリズムが発生するためには先行する音とその後の音時間的な距離感が確定されなければならない。そうしてそれによって次の音の発生を予測することができる。この予測が成り立たなければ演奏、特に合奏は困難だろう。また、一つの楽曲の中で盛り上がりを見せる箇所であったり、またはクールダウンしていく間奏部など、それらの印象はその箇所が一曲の中で相対的に位置付けられて得られる印象である。先のリズムや展開の予測がそれまでの記憶に依っているという点で音楽はおおよそ記憶の反復によってかなりの部分が成り立っていると言えるだろう。 

 つまりこれはその場の音楽体験の内に限ったことではなく、ある音楽を体験することは同時に聴取者のそれまでの音楽体験を少なからず参照することで成り立っている。そのように考えた場合、音楽は少なからず過去の焼き直しであると言うことができるだろうが、例えばこと演奏の領域においては「即興」という形でそこから逃れようとすることもできる。だがその即興も我々に記憶というものがある限り、常にイディオムや方法に回収される道からは逃れられない。 
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古沢健太郎(ふるさわけんたろう)

音楽家 1988年東京生まれ
アンビエント、ドローン、ノイズを軸とした楽曲を制作。
https://soundcloud.com/circlelikeq
ポエトリーリーディング等と共演のライブ活動も行う。
https://www.youtube.com/watch?v=T2aZanobVAY
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